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はじめの一歩 第4回

記事公開日:2015年05月26日

今日の子ども達は、その年齢を問わずさまざまな心の悩みをかかえているといえましょう。子どもの心の相談室に持ち込まれる心配は広範囲に及びますが、その心配(=主訴)をみてみると、子どもの年齢(世代)、またその時代によって大きな特徴がみられるのです。

まず就学前までの子ども達において特徴的なのは、言語発達と「精神発達」の心配です。そして「社会性」に関する心配があげられますが、頑固な指しゃぶり、爪噛み、遺尿といった「神経性習癖」といわれる症状が多くみられるのもこの時期の特徴です。

また日本では、二十年ほど前から社会的にも知られるようになり、マスコミ等でも盛んに取り上げられるものとして、自閉症(あるいは自閉的傾向)があります。この自閉症についての心配がよりはっきりと顕れてくるのは、一歳から三歳頃ですので、相談は幼児期に集中することになります。今からおよそ十~二十年前、多くの相談機関は自閉的傾向を持つ子ども達でいっぱいでした。ところが最近ではそれも少し落ち着きをみせはじめ、自閉的な心配を持つ子どもの訴えは減少傾向にあるようです。この自閉症については原因論をはじめとして不明な点が多いのですが、それ故多くの誤解が生じてきているのも見過ごすことのできない事実です。たとえば「内向的な子ども=自閉症」といった捉え方をされたり、「親の育て方が自閉症の原因である」などといった乱暴で短絡的な考え方をする人があるのは、まったく困ったことだと思います。

次に児童期をみると、対人関係の心配が増えてきます。これは「非社会的不適応行動」などと言われるものですが、ここにも微妙な子どもの心の内を見る思いです。また「不登校(登校拒否)」もしだいに小学生の中にも広がりつつあるようです。さらに児童期の「神経性習癖」の中では、チック、吃音、夜尿などもみられます。そしてこの年齢になってくると「神経症的な傾向」がいろいろとみられるようになります。たとえば、執拗なうがいのくり返し、幾度となく手を洗わなければ気がすまないといった強迫神経症的な症状、また人の目(視線)が恐いなどの症状もみられますが、これらはおとなの強迫神経症、サラリーマンに多発するノイローゼとなんら変わらない発症メカニズムと考えると、あの子どもらしいのびのびとした子どもの世界は、いったいどこへ行ってしまったのかと考えさせられてしまいます。

次に中学生以上の時期をみてみると、やはり「不登校」が相談のトップの座にあります。特に彼らの中には、人と関わることが下手な子どもが多いともいわれます。

東京のある都市で、十年ほど前までは非行の相談がトップであったのが、この十年の傾向をみると不登校がトップとなり、現在もよこばいの状態です。これは非行といういわば外から見える問題から、内に向かう問題へとその顕われ方が変わってきていると捉えることができるのではなかと思います。つまり誰の目から見ても明らかな問題行動というのは、、ある意味で問題解決への手掛かりを示してくれているわけです。ところが不登校で代表されるような子ども達の場合には、その心の内をストレートに外に顕わしてくれない、つまり手掛りを教えてくれない訳ですから、なかなか大変で問題が長期化しやすいということになる訳です。

このような子どもの心を考えた時、あらためて“病める現代社会”の大変さを痛感させられます。

では、このような子ども達に対して我々は今、何ができるのでしょうか?相談の基本は子どもの心を理解しようとするところから始まることは言うまでもありません。しかしここで注意すべきは、私たち相談員はけっして教師でもなく、医者でもなく、まして親でもないということです。相談員というのはこの現実の子どもをとりまく諸々の関係、立場から離れて存在するものなのです。そして何があろうともその子どもを否定することなく、どんな時にも子どもの“唯一人の味方”でなくてはなりません。子どもの気持ちを理解し、受け入れる(=受容)ということは簡単なことではありません。しかし、これ(受容)なくして相談は進まないのですから、まずじっくりと子どもの話に耳を傾けることが重要なことなのです

多弁な相談員は、けっして優れたカウンセラーとはいえないのですから。

※本原稿は、第3号 立正福祉 平成6年4月28日に掲載した「心の健康と発達-心理相談の基本II-」をそのまま転載しています。