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はじめの一歩 第1回

記事公開日:2015年05月20日

私たちは日ごろ、どのようにして心のうちを人々に伝えるようとしているのでしょうか。時にはことばで、またある時は表情、身振り手振りも使っているかもしれません。

では、子どもたちはどうでしょう。どのような手段、方法を使って私たちおとなに心の内を伝えようとしているのでしょうか。

心の注意信号

子どもの心の中を知ることは、なかなか難しいことです。特にそれが、言語表現の未熟な年少児であったり、障害を持つ子どもの場合、また心の中に複雑な問題をかかえている子どもの場合などでは“話をしてわかる”というものではありません。

しかし、心の状態というものは、子どもたちのあそび(行動)をしっかりと観察することで、ずいぶんと理解できることも事実です。

ここで、大変わかりやすい例として、幼児期にしばしば問題にされる「指しゃぶり(爪かみ)」で考えてみましょう。

赤ちゃん時代の指しゃぶりについては、ほとんどの母親たちはそれを問題にすることはありません。むしろ可愛らしい行動としてやさしく見守っているのです。しかし、3歳を過ぎでも一向におさまらず、それどころか以前にも増して、頻繁に見られ、ついには指にタコができてしまう場合も珍しくないのです。もうこうなると母親は心配でたまりません。朝から晩まで叱ってばかり、そしてついには指にバンドエイドを巻きつけたり、また体罰までも出てきます。しかし子どもの指しゃぶりは止まるどころか、どんどんエスカレートしていくばかりです。

ここで気づかれるのは、母親の心配が「指しゃぶり」という目に見える行動ばかりに注がれてしまっており、もっとも重要な子どもの心に向けられていないことです。

「指しゃぶり」というのは、心理学的には、心の不安、淋しさを表す行動と考えることができますから、ここで大切なのは、まず子どもの不安、淋しさを解消してあげることなのです。具体的には子どもとの遊びの時間を作り、受容的態度で子どもの心をしっかりと受け止めることがもっとも重要なことであり、それができるならば、この症状は急速に消失していくはずなのです。

つまり子どもは、指しゃぶりという形で自分の不安定な心の状態を周囲に知らせているのですから、その注意信号に気づいてあげることが大切です。しかし、それに気付かず「症状」だけを何とか消そうということでは、子どもの心はますます不安定となり、心の安定剤としての指しゃぶりが強くなっていくわけです。

症状は訴える

このように、子どもとおとな(親)の心がお互いにずれた方向にいってしまうことはしばしば見られることなのです。たとえば、

一日中、母親の傍を離れなくなった。

夜尿、遺尿、頻尿などの排泄の諸問題。

赤ちゃんことばや吃音が始まるなどの言語に関する諸問題。

偏食、拒食、過食、嘔吐などの食生活上の諸問題。

友達、きょうだい、家族への反抗などの対人関係上の諸問題。

などといったことがらは、多くの場合、甘え、わがまま、未熟さ、性格の問題、しつけの失敗などとして考えられることが多く、その根源にある子どもの不安定な心にまで目を向けてもらえず、表面的な対処療法で終わってしまうことも少なくありません。

このように、症状が何かを訴えているかについて理解を深めていくことが、高年齢になるほど重要と思われます。

たとえば、不登校を起こす子どもの中には、朝になると熱を出しそのために学校を休むというケースがあります。この場合、発熱というのは「風邪気味なので熱があるかもしれない」と、安易に身体の問題として考えることが普通には多いのですが、実はそうではなく「心の問題」から発熱を起こすということもあるのです。これらはいわゆる神経症的なケース、おとなのノイローゼと同様な症状と考えられるのです。

私たちは、子どもたちの日々の心の注意信号を見落とすことなく、豊かな感受性を持って、彼らと接することができればと思うのです。

※本原稿は、第4号 立正福祉 平成7年4月28日に掲載した「心の健康と発達-心理相談の基本Ⅲ-」をそのまま転載しています。