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はじめの一歩 第3回

記事公開日:2015年05月26日

子どもたちの心の発達が順調に遂げられるためには、乳幼児期の人間関係がとても大切であると考えられています。特に誕生後、二、三歳までの人間関係は、その子どもの後の心の発達、性格形成にまで多大な影響を及ぼすといっても過言ではないでしょう。

アタッチメントとは

乳幼児期に重要な役割を果たすのは、なんといっても「母親」という存在ですが、この母子関係の中心にあるのが「愛情のきずな」といわれるもので、これはアタッチメント(=愛着)と呼ばれています

子どもは生後まもなくから活発に、この社会との関わりを持ちはじめます。そしてさまざまな人の関係へと進んでいくようになりますが、そのスタートには、まず母親と一対一の愛情のきずなを結ぶということが大切なことなのです。つまり、一対一のしっかりとした人間関係があるからこそ、たくさんの人々との関わりが上手に出来るようになるのです。

このようにアタッチメントというのは、子どもの心の発達の基礎となるものですが、このアタッチメントにはもう一つの役割として子どもの不安を鎮めるという効果があるのです。つまり、母親には子どもにとっての「安全基地」という重要な機能があることを忘れてはなりません。

子どもがあそびを展開し、行動していく時の大敵は、不安や恐れであるといえます。子どもは新しい世界に好奇心を持って向かって行くわけですが、この時、新しい世界は子どもにとって不安や恐れを感じさせることになるのです。たとえば、“恐いもの見たさ”というように、一方で好奇心を持ってどんどん遊び(行動)を進めて行きたいと思いながらも、もう一方ではたえず不安や恐れという感情を持っているのが子どもの心の中なのです。

あそびを広げていく時には、この不安や恐れというものを鎮静させる必要が出てきます。この時にアタッチメントが重要な役割を果たすのです。つまり、母親としっかり愛情のきずなが結ばれている子どもであれば、母親という存在に支えられて、不安を鎮め、勇気を持って新しい世界に自らの力で関わっていくことができるのです。

あそびは心の栄養に

このように、乳幼児期にしっかりとしたアタッチメントを形成しておくことは、子どもの心の発達にとって大切なことなのですが、これは時として誤解を招くことになるので注意が必要です。というのは、しばしば相談場面でこの話になるとお母さんの中には、「そんなに子どもを甘やかしてもいいんですか?」とか、「子どもを早く自立させたいのに、それでは逆効果にならないでしょうか?」などと言う人があります。

たしかにアタッチメントを形成するには、子どもとしっかりスキンシップをはかり、共に楽しく遊ぶ時間を作ることが必要です。しかし、このことと甘やかすことは明らかに違います。子どもに対しては、受容的態度をもって、子どもの自発性を尊重した遊びに心掛けることが基本なのですから、これは甘やかすというのではありません。

また自立についても同じことで、子どもとの遊びはけっして自立への妨げになるものではりません。もしそれが妨げになっているとしたら、おとなの側の対応に問題があると思われます。

こんな事例があります

顕ちゃんは一人っ子ですが、お母さんは彼を早く自立させたくて小さい頃から何でも一人でさせるようにしてきました。あそびの面でもなるべく独りあそびをさせていたのです。そしてその親の期待に答えるべく顕ちゃんは成長していきましたが、三歳を過ぎてもことばが出ず、表情も少なく、いきいきとした遊びがまったくみられない不安の強い男の子となってしまったのです。

顕ちゃんのお母さんは、自立を急ぐあまり自分から離すことしか頭になかったようです。一番そばにいて欲しいお母さんがいなくなってしまうのですから、これでは顕ちゃんの不安は強くなるばかりです。お母さんとの遊びは、かけがえのない心の栄養になっていることはいうまでもありません。

※本原稿は、第5号 立正福祉 平成8年4月28日に掲載した「心の健康と発達-心理相談の基本IV-」をそのまま転載しています。