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はじめの一歩 第2回

記事公開日:2015年05月25日

私たち人間は、人と人の関わりの中で生きています。そのスタートは、赤ちゃん時代のお母さんとの出会いにまでさかのぼることになるでしょう。

この人間社会に生まれた赤ちゃんは、まずお母さんと「心のきずな」を結び、それを中心にして次第に周囲の人たちへの活動の輪を広げ、様々な人との関わり・体験を通して、自分自身の「心」を発達させていくことになります。

子どもの心が順調に発達していくためには、安定した母子関係が基礎となりますが、そこで重要なことは、「子どもと共に遊ぶこと」であろうと思われます。

しかし、私たちおとなは、子どもの遊びというものについて、どれほどの理解を持っているのでしょうか?

大人から見ると、子どもの遊び、ましてや乳幼児期の遊びというものは、たわいもなく、くだらないものと映るかもしれません。しかし子どもたちは、この遊びの中に自らの心を表現し、遊びと共に成長していくのです。つまり、子どもの心の健康と発達にとって、この遊びは大変重要な役割を果たしているのです。実際、子どもの心理相談の現場では、この遊び(=遊戯療法)を通して、子どもの心を知り(=診断)、子どもの心を健康に(=治療)しいていくことになるのです。

母親が子どもと遊ぶ姿は、大変ほほえましい光景です。ところが、相談室の扉をたたくお母さんたちの中には、「子どもと、どう遊んでいいのかわからない」といった悩みを持っている人も多いのです。この場合には、お母さん自身もカウンセリングの必要性が生じてくることになります。つまり、子どもの様々な問題解決には、お母さんとの関係が重要になってくるのです。

しかし、ここで気を付けなければならないことは、母親をまるで『犯人あつかい』することです。経験の浅い相談員は、「子どもに問題が生じるのは、親に問題があるからだ。親こそ諸悪の根源である」と短絡的に考えてしまいがちです。そんな考え方では、母親への叱言、批判、攻撃しか生まれてこないのです。なぜ母親がそうなったのか、どのような経過があって今その人があるのか、多面的に、そして慎重にその人を理解していこうとする姿勢がない限り、なんら問題解決へと進展していかないのです。このように人を理解する態度は、当然、子どもに接する時にも大切となってきます。

多くのおとなたちは、なんら専門的知識の裏づけもなく、自分自身の経験だけを頼りに、子どもの遊びや、子どもの心を見てしまう傾向があります。また、自分の価値観を子どもに押し売りすることも多いのです。子どもの心を「受容」していく態度もなく、子どもの自発性(主体性)を無視したところには、心のつながりは生じてこないのです。

心理相談の現場では、こんな相談員ではまったく通用しません。いくら言葉だけはやさしくても、警察の取り調べ室となんら変わりないことでは困ります。

子どもの心や、親の気持ちを受け止めること(=受容)は、簡単なようで実はなかなか難しいことと思われます。

情熱だけでも、また知識だけでも人間理解は進みません。両者を共に合わせもってこそ、人への理解が一歩進むように思われます。

※本原稿は、第2号 立正福祉 平成5年4月28日に掲載した「心の健康と発達-心理相談の基本-」をそのまま転載しています。